English article is here; https://japaneselanguagesalonbymikapanda.com/the-communication-not-to-say-anything-2-in-english-516
はじめに ~省略されている言葉(ことば)たち~
「こんにちは」
「こんにちは」、ミカです!
さて、いつも最初(さいしょ)に使(つか)っている「こんにちは」ですが、実(じつ)は省略されているということを知(し)っていますか?
「今日(こんにち)は」とは、「今日(こんにち)はご機嫌(きげん)いかがですか?」の略(りゃく)なのです!
「おはよう」
続(つづ)いて「おはよう」は、「お早(はよ)うお越(こ)しでございますね」の略です。意味(いみ)は、「早(はや)い到着(とうちゃく)ですね」、つまり「早(はや)く来(き)てくださってありがとうございます」ということです。
「さようなら」
次(つぎ)に「さようなら」ですが、この挨拶(あいさつ)そのものに「別(わか)れ」を表(あらわ)す言葉(ことば)が入(はい)っているわけではありません。
実は「さようなら」は、元々(もともと)「然様ならば」という古(ふる)い日本語の接続詞(せつぞくし)なのです!
例(たと)えば、以下(いか)のような会話(かいわ)があったとしましょう。
「本当(ほんとう)はまだお別れしたくないのですが、この後(あと)予定(よてい)があるので、今(いま)すぐ出発(しゅっぱつ)しなければなりません。」
「そうですか。では、またいつかお会(あ)いしましょう。」
この会話における、「そうですか。では、」が「然様ならば」の直訳(ちょくやく)になるのです!
「すみません」
そして謝罪(しゃざい)や感謝(かんしゃ)の言葉である「すみません」は、「この程度(ていど)の謝罪/感謝では、私の気持(きも)ちは収(おさ)まりません。」の「収まりません」が「済(す)みません」となっています。
「まいどおおきに」
最後(さいご)に、「毎度(まいど)大(おお)きに」は関西弁(かんさいべん)で「いつも本当(ほんとう)にありがとうございます」という意味ですが、「毎度」は「いつも」、「大きに」は「本当に」「とても」を表(あらわ)しています。
つまり、「まいどおおきに」の中(なか)に「ありがとうございます」のような感謝の言葉はないのです!
それでも、不思議(ふしぎ)なことに「まいどおおきに」や「まいど」、「おおきに」だけでコミュニケーションは成(な)り立(た)ってしまいます。
省略も大好(だいす)きな日本人
前回(ぜんかい)の記事(きじ)「言(い)わないコミュニケーション① ~間接的(かんせつてき)に伝(つた)える日本人~」でも紹介(しょうかい)したように、日本人は世界(せかい)で最(もっと)も強(つよ)いハイコンテクスト文化(ぶんか)を持(も)っています。
日本人は、島国(しまぐに)という閉鎖的(へいさてき)環境(かんきょう)の下(もと)、長(なが)い年月(ねんげつ)をかけて言葉にされていない相手(あいて)の「本心(ほんしん)」を「察(さっ)する」能力(のうりょく)を身(み)につけてきました。
そのため、間接的(かんせつてき)な表現(ひょうげん)のみならず、省略された表現も好(この)んで使(つか)うようになってしまったのです!
「でも、省略ぐらい他(ほか)の言語(げんご)でもあるでしょ?」……と、思(おも)いましたか?
確(たし)かに、その通(とお)りですね。例えば、先程(さきほど)の写真(しゃしん)の「なるはや」は「なるべく早(はや)く」の略語(りゃくご)ですが、英語(えいご)だと”As soon as possible”を省略して”ASAP”と言(い)いますよね。
他にも、”Oh my God!”を”OMG”、”Laughing out loud”を”LOL”、”You too.”を”U2″と表していますよね。
ですが日本人は、皆(みな)さんが省略して欲(ほ)しくないと思っているものも容赦(ようしゃ)なく省(はぶ)いています。
そう、それは「主語(しゅご)」と「目的語(もくてきご)」、そして「所有格(しょゆうかく)」のことです!!
なぜ「主語(しゅご)」・「目的語(もくてきご)」・「所有格(しょゆうかく)」を省略するの?
自己紹介(じこしょうかい)の場合(ばあい)
「はじめまして、ミカです。日本人です。29(にじゅうきゅう)歳(さい)です。日本語教師(きょうし)をしています。よろしくお願(ねが)いいたします。」
例えば、私が自己紹介(じこしょうかい)をすると、上(うえ)のようになります。
ところで、気(き)づきましたか? 上の自己紹介の中に、「私」という主語が一(ひと)つもないことに!!
上の自己紹介を、敢(あ)えて英語の直訳(ちょくやく)のように、全(すべ)ての文(ぶん)に主語や所有格を入(い)れると以下(いか)のようになります。
「はじめまして、私の名前(なまえ)はミカです。私は日本人です。私は29歳です。私は日本語教師をしています。よろしくお願いいたします。」
いかがですか?
私、私、私、私、私……同(おな)じ主語が続くと、日本語としては非常(ひじょう)に不自然(ふしぜん)で、日本人にとってはとても聞(き)き難(にく)い、もしくは読(よ)み難い自己紹介になってしまいます!
自己紹介なのですから、常(つね)に主語が「私」であることはわかりきっています。ですから日本人は、積極的(せっきょくてき)に主語や所有格を省略したがるのです。
会話(かいわ)の場合① ~犬(いぬ)の散歩(さんぽ)~
今度(こんど)は、会話の場合を考(かんが)えてみましょう。
例えば、あなたは犬(いぬ)を飼(か)っていて、愛犬(あいけん)と散歩(さんぽ)に出(で)かけているとします。
そして、散歩の途中(とちゅう)で知(し)らない人(ひと)に話(はな)しかけられました。
「こんにちは! 可愛(かわい)いですね。撫(な)でてもいいですか?」
「はい、どうぞ。」
「名前は何(なん)て言(い)うんですか?」
「マリンです。女(おんな)の子(こ)です。」
「こんにちは、マリンちゃん!」
……では、この会話に敢えて主語や目的語、そして所有格を入れてみましょう。
「こんにちは! あなたのワンちゃん、可愛いですね。私はあなたのワンちゃんを撫でてもいいですか?」
「はい、どうぞ。」
「あなたのワンちゃんの名前は何て言うんですか?」
「私の犬の名前はマリンです。マリンは女の子です。」
因(ちな)みに、犬のことは愛情(あいじょう)を込(こ)めて「ワンちゃん」と言います。なぜなら、犬は「ワンワン」と吠(ほ)えるからです。
それはさておき、二(ふた)つの会話文(かいわぶん)を比(くら)べてみましたが、いかがでしたか?
どれだけ日本語が主語・目的語・そして所有格を省略しているか、よくわかったのではないかと思います。
では、なぜこのように主語・目的語・所有格を省略するのでしょうか?
それは、会話に参加(さんか)している人物(じんぶつ)たちが同じ「場(ば)」、つまり「状況(じょうきょう)」と「話題(わだい)」を共有(きょうゆう)しているからです。
男性(だんせい)が愛犬と散歩していて、そこへ女性(じょせい)が登場(とうじょう)し、男性の愛犬について話(はな)し始(はじ)める――登場人物たちが共有しているその「状況」や「話題」が判明(はんめい)していて、尚(なお)且(か)つその「状況」や「話題」が変(か)わらないのなら、主語・目的語・所有格を具体的(ぐたいてき)に表す必要(ひつよう)はないのです。
会話の場合② ~テスト後(ご)の学生(がくせい)~
最後(さいご)に、テスト後の学生の会話で考えてみましょう。
「ねぇ、どうだった?」
「全然(ぜんぜん)!! あれなんてさ、誰(だれ)も解(と)けなかったんじゃない?」
……これだけで内容(ないよう)を理解(りかい)することができたら、あなたは難(なん)なく日本での学生生活(せいかつ)を楽(たの)しむことができるでしょう。
では、省略されているものを入れてみます。
「ねぇ、テストの手応(てごた)えはどうだった?」
「全然ダメだった!! あの難(むずか)し過(す)ぎる問題(もんだい)なんてさ、誰も解けなかったんじゃない?」
……いかがでしょうか?
「テスト後である」という「状況」を「共有」しているので、「話題」が隠(かく)されていることはまだ許(ゆる)して欲しいと思います。
しかし、遂(つい)に述語(じゅつご)まで省かれてしまいましたね!!
なぜ「ダメだった」が省かれたのかというと、「全然」という副詞(ふくし)の後(あと)には基本的(きほんてき)に否定(ひてい)の表現が来(く)るという文法的(ぶんぽうてき)知識(ちしき)を「共有」しているからです。
そして、「あれ」という代名詞(だいめいし)が「あの難し過ぎる問題」であることは、その後に続く「誰も解けなかったんじゃない?」という文から「察する」ことができます。つまり、日本人は「文脈(ぶんみゃく)」をヒントにして、代名詞が表している言葉を考えることができるのです。
終(お)わりに
いかがでしたか?
皆さん、写真の少年(しょうねん)のように、”OMG!!”と叫(さけ)んでいませんか?(^^;)
文法や漢字(かんじ)だけでも大変(たいへん)なのに、主語も目的語も省略されているなんて……と、絶望(ぜつぼう)していませんか?
私も、もし日本語を勉強(べんきょう)している外国人(がいこくじん)だったら、同じ気持ちになっていたことでしょう。
でも、安心(あんしん)してください。テストは教(おし)えてくれませんが、相手が人なら、お願(ねが)いすればちゃんと省略された言葉を教えてくれるはずです。
辛抱(しんぼう)強(づよ)く練習(れんしゅう)して、少(すこ)しずつ慣(な)れていってくださいね!
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